日本のクローン病患者にヨーネ菌IS900蛋白に対する特異抗体があることを初めて証明した研究。

この論文は2008年に京都大学医学部の中瀬裕志博士らが報告したものです。
ヨーネ病の感染はクローン病の病原因子として推定されています。
しかし、クローン病の病態生理学におけるヨーネ菌の関わりについては論争が続いているのです。
この研究の目的はヨーネ菌に特異的な遺伝子の一部で挿入配列IS900をコード化しているグルタチオンSトランスフェラーゼの組換え型タンパク質を作り、クローン病の病理発生に関係しているかどうかを調査することです。
「ELISA」の画像検索結果
*注:ELISA試験の原理を簡単にご説明します。

グリーンの◯が底に固着されています。この論文の場合には組み換え型のヨーネ菌蛋白質です。
オレンジ色のY字型がグリーンの丸にだけ結合する性質を持つ血清中の抗体です。
このオレンジ色のYに結合する第二抗体と標識物質の結合体が結合すると間接的に、グリーンの◯が存在することを証明できます。
(この図はバイオラッド社のHPより引用させていただきました。)

実験方法
「ELISA」の画像検索結果クローン病 50例、潰瘍性大腸炎40例、大腸結核20例、そして非IBD(炎症性の腸疾患以外の症例)対照44例由来の血清サンプルを収集。血清はヨーネ菌と酵母に対する抗体を検出するための固相酵素結合抗体免疫吸着アッセイ(ELISA)検査にかけられた。
抗体を検出する標的の抗原としては分子生物学的に合成された組み換え蛋白IS900-GSTがヨーネ菌そのものの代わりに使われたのです。
さらに、我々はIS900-GSTに対する抗体と臨床症状との関連性も調べられた。

結果
ELISAの実験からクローン病の患者におけるIS900-GST(抗IS900)に対する免疫グロブリンGと免疫グロブリンA抗体のレベルは潰瘍性大腸炎や大腸結核そして非IBDの対照被験者を持つ人々よりも統計学的に有意に高いことが示された。
IS900のレベルは、炎症性タイプのクローン病よりも、穿孔性や狭窄性のクローン病において高い傾向にありました。
さらに抗IS900の抗体価と疾患期間の間に負の相関があることもわかりました。抗IS900抗体の存在は外科治療や免疫抑制剤を用いた治療とも関連していませんでした。抗IS900と酵母菌の血清レベルの間に有意の相関関係は見られなかった。

結論
これは、IBD患者におけるヨーネ菌IS900に対する抗体をELISA法により検出した最初の報告です。
ヨーネ菌はクローン病にかかっている日本の患者さんの病気の発生に関係している可能性があります。
ヨーネ菌はマクロファージからのTNF-α(腫瘍壊死因子)分泌に関与しており、クローン病ではTNF-αの過剰産生が病状の原因とされていることから、クローン病における免疫反応とヨーネ菌の間に関連性が疑われるのです。

*CMRI注:IS900という遺伝子配列は特徴的な配列で、かつヨーネ菌がたくさん持っているために、ヨーネ菌の存在をPCR法で見つける時に使われますが、この配列がどのような作用を持っているのかはわかっていません。本来であれば実際のヨーネ菌そのものを抗原として使えばよいのかと思われますが、病原菌であるヨーネ菌を持っていない状況でこの組み換えタンパク質を用いたものと思われます。

Inflamm Bowel Dis. 2006 Jan;12(1):62-9.
Specific antibodies against recombinant protein of insertion element 900 of Mycobacterium avium subspecies paratuberculosis in Japanese patients with Crohn’s disease.