関東と関西の犬でスギ花粉症の抗体に違いがある(日本 2018)

比較医学研究所は麻布大学の共同研究を進めてきました。その免疫アレルギーの研究の一環として、多くの人が罹っているスギ花粉症の解明の一環で関東と関西のイヌのIgE抗体の存在を初めて明らかにしました。イヌで杉花粉症のIgE抗体を証明した研究は国際的に初めてです。従来から動物から得られたデーターは人の医療に役立ってきました。

研究の背景

日本国内のスギ花粉は増加してきており、ヒトのスギ花粉症も増加の一途です。

ヒトのスギ花粉症を起こすアレルゲンとして主としてCryj1とCriJ2が重要です。これらに対するIgE抗体がどのくらいあるのかをイヌを飼育する施設と家畜病院で治療を受けたイヌの血清で調べた研究です。

材料と方法
71例の血清が2箇所の施設で飼育されるイヌから。87例が兵庫県と神奈川県内の動物病院で収集されました。

IgEのレベルは市販されているCrij1とCrij2の精製抗原と市販の酵素結合免疫吸着検定法(ELISA法)で測定されました。

結果
閉鎖された施設で飼育されきたきたイヌであるにもかかわらず、両方の施設由来の血清中に両方のスギ花粉アレルゲンに対する抗体が検出されました。

さらに、2つの施設間で両アレルゲンに対する抗体に有意な差異が認められた。

Crij1もしくはCrij2に対するカットオフ値以上の抗体を示すサンプルは兵庫県より神奈川県の施設のイヌに多く見られた。

全体ではCrij1とCrij2の両方においてカットオフ値よりも高いIgE抗体を示したのは兵庫県の14頭のイヌで、神奈川県のイヌは3頭のみであった。両方のアレルゲンに対する血清レベルの間には有意の相関関係が認められた(r2 = 0.6931、p < 0.0001)。

結論

Cry j 2とCrij2に対するIgE抗体は日本のイヌにおいて同程度の率で検出された。
エアーフィルターを通した空気を供給される囲まれた施設空間内で生まれて飼育されイヌにもスギ花粉アレルゲンに対する抗体が認められ、連続的なスギ花粉暴露が示唆されたことは意外だった。
カットオフ値より上にCry j 1またはCry j 2レベルを示している標本数は、兵庫県でより神奈川県で大きかった。イヌにおけるIgE抗体の陽性率の違いは、ヒトの中に認められる地域差と類似していると思われた。(*イラストは入れていますが、この研究では咳などの臨床症状は確認しておりません。)

Seroprevalence of Immunoglobulin E Antibodies against Japanese Cedar Pollen Allergens Cry j 1 and Cry j 2 in Dogs Bred in Japan. Kuribayashi T, Cossu D, Momotani E. Vet Sci. 2018 Sep 11;5(3). pii: E79. doi: 10.3390/vetsci5030079. 全文を英文のPDFで読むことができます。


参考資料
花粉症患者実態調査(平成28年度) 概要版(東京都衛生研究所、PDF)

アレルギー疾患の現状等 (H28, 厚生労働省 健康局 がん・疾病対策課、PDF)