治癒困難な幼児の炎症性腸疾患(IBD)の症状(イラン)

炎症性腸疾患はヨーネ菌の関与が疑われている疾患ですが、発症年齢の低年齢化とともにその発生数の増加が世界的に報告されており、原因の究明や治療法の研究推進が望まれております。我が国では世田谷の成育医療研究センターなどで対応しておりますが、昔あまり問題とされなかった幼児や乳幼児のIBDがなぜ増えてきたのでしょう。CMRIでも関心を持っております。ここでは最新の論文としてイランのグループから報告された論文の概要をご紹介します。

(*赤ちゃんの写真は本報告とは無関係なストックイメージからの引用です。)

早発性炎症性大腸疾患(VEO-IBD)は異なった症状(フェノタイプ)を呈する幼児に発生するIBDで、特別な疾患のグループだと考えられなければならないものです。VEO-IBDは非常に重篤な臨床像を伴い、臨床寛解が起こりにくい不確定の大腸炎として知られています。本研究ではVEO-IBDとされた新生児の症例を検討しました。これらの症例は治療に反応し難いものでした。

症例:7日齢イランの女性の新生児は牛乳のタンパク質に対するアレルギーで見られるような重篤な直腸結腸炎を示唆する重篤な血性下痢を起こし、食欲の低下、腹部膨満と脱水症状を呈しました。これらの状態は、1ヵ月間の経口摂取中止にも反応しなかった。
感染症、セリアック病と嚢胞性繊維症などは診断から除外されました。

免疫学的検査:IgG、IgA、IgMやフローサイトメトリーでのT細胞、B細胞、nitroblue tetrazolium/oxidative burst 検査は正常範囲を示した。抗好中球細胞質に対する抗体は陽性でした。
糞便検査:菌や寄生虫はいずれも陰性。
血液検査:pH、塗抹では白血球数、赤血球数は正常。血液検査では貧血(ヘモグロビン=9.9)と白血球増多症が認められた。
経過:
新生児の症状が改善されず発育不全が起こっているため、上下からの消化管内視鏡検査が行われ、潰瘍性大腸炎が認められました。
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外科手術で切除された幹部の大腸(潰瘍性大腸炎を疑っています)
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5993906/bin/IJMS-43-328-g001.jpg

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切除された腸組織の組織学的な所見(潰瘍性大腸炎としています)
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5993906/figure/IJMS-43-328-g002.tif/

4ヵ月後:彼女は中毒性大腸炎(toxic colitis)と急性腸管穿孔(acute intestinal perforation)の徴候と症状を呈した。
そのため救急的な開腹が急がれた。結腸の壊死に対しては半結腸切除術と人工肛門形成手術が実施された。

回復:患者は外科手術後に蘇生し、回復した。グルココルチコイド(副腎皮質ホルモン)とメサラミン(抗炎症薬の一つ)が投与された。

まとめ:著者らは、このような症例は増加しており、10歳未満の小児で診断される症例数も増えていると考えている。
小児のIBDにおいては広範囲な結腸疾患を伴うことから、完全な寛解を導くためにはより年齢の高いIBD患者の場合よりもずっと強力な治療的な介入が必要だと述べている。

PubMed英文要旨
上記の組織の寫眞は. 2018 May; 43(3): 328–331.より引用紹介しました。
この雑誌はどなたにも読み出せる雑誌です。詳しいことは原著論文を御覧ください。

「Motahari Hospital, Jahrom University of Medical Sciences」の画像検索結果

Motahari Hospital, Jahrom University of Medical Sciences, Jahrom, Iran.

Faculty of Medicine, Mashhad University of Medical Sciences

*CMRIからのコメント
IBDは全世界的に発生が増加しており、医療や医療経済の観点などからも様々な論文が出されています。
遺伝子や腸内フローラ(マイクロバイオータ)の異常など様々な仮説が打ち出されていますが、真の原因究明には至っておりません。
遺伝子や腸のマイクロフローラにそれほど大きな変化が起きてきているのか個人的には疑問もあります。しかし、本病の原因の一つとして言われてきている、ヨーネ病は全世界的に発生が増加して食品汚染が進んでいることが明らかです。私どもは重要な可能性としてヨーネ菌とIBD発症の関連を疑い、関連を示す証拠や実験的な研究を進めてきました。
実はこの報告の症例とそっくりの出血性の下痢が見られ、牛乳アレルギーとの関連が疑われて治らなかった(最終的には寛解しました)というお子様の症例が身近にありました。出生後7日という新生児期の赤ちゃんの腸に一体何が起こっているのか、現代医学を持ってもわからないということが理解し難いのですが、研究者が少ないということもあると思われます。
CMRIではヨーネ菌抗原や検査技術を持っており、ヨーネ菌との関連が疑われる同様の症例について、関連性の有無などの検査にご協力いたします。ご遠慮無くお声掛けをいただければご協力をしていきます。お声掛けをください。

この症例で治療に使われたグルココルチコイドメサラミンは大人のIBDでも用いられていますが、あくまで対症療法薬であり、とても古典的な抗炎症剤です。原因や病理発生機序の究明をもとにした原因療法や対策が待たれます。(百溪)