うつ病における末梢血C-反応性タンパク質(CRP)上昇と抹消中枢の炎症の関連はあるのか?
原因のわからない自己免疫病やアレルギー疾患も増えていますが、うつ病を始めとする心の病気を持つ人も増えています。それまで兆候のなかった人が徐々にもしくは急激に精神の不調を訴えることもあります。様々な原因が疑われていますが、脳や神経の免疫学的な変調や炎症も原因として疑われています。心の病気には症状を改善するための対症療法が多く用いられますが、その状況を起こしている原因が明らかになれば、その原因に対するより的確な治療も可能になります。この報告は炎症に関連した生化学的なマーカーと病気との関連を調べたものです。ジョージア州アトランタのエモリー大学のFedlerらのグループの行なった研究の進展の一部をご紹介できればと思います。
イントロ:
末梢血液中のC反応性タンパク質(CRP)は、臨床的に、全身性炎症を測定するのに用いられるバイオマーカで、大うつ病性障害(MDD)患者のサブグループにおいて再現性よく増加することが知られています。
さらにまた、MDDの患者の末梢血液中に増加したCRPは、脳内の報酬回路に変化を与えてと快感消失(以前は感じていた楽しみやうれしさが味わえなくなること)の症状と関連した脳グルタミン酸塩の増加に関係していていた。
にもかかわらず、うつ病患者における炎症の末梢血中CRPと他の末梢血および中枢性(脳脊髄液)のマーカーの関係は明らかにされてこなかった。
材料と方法:
医学的に安定な状態のMDD患者で最近は薬物治療を受けていない外来患者から血漿89例とCSF(脳脊髄液)73例が採取された。
血漿と脳脊髄液中のCRPと炎症性サイトカインとして、インターロイキン-6、腫瘍壊死因子(TNF)およびインターロイキン1β、そしてそれらの可溶性受容体/アンタゴニスト(生理活性物質が特異的に結合する受容体の中で可溶性のもので、これは活性物質結合して)間の関連が調べられた。
血漿とCSF炎症マーカーの関係、快感消失とモチベーションの低下を含む抑うつ症状についても調べられた。
結果の概要:
血漿CRPは複数の血漿中炎症マーカーと相関(p < 0.05)していた、そして、血漿とCSF CRPの間には強い相関(r=0.855、p < 0.001)が認められた。
CSF中のCRP値はCSF中のサイトカイン受容体/アンタゴニスト(すべてのp < 0.05)と相関していた。
主成分分析により高度な血漿CRP値(>3mg/L)と関係して、抑うつ症の状重症度とも相関した一群のCSF炎症マーカーが明らかになった。
これらの所見はCSF中のTNFによって動かされていた。そして、TNFはRNやCSFのIL-6可溶性受容体と相関していた(p=0.045)。そして、全体と特に女性の検体で快感の消失と相関していた(p=0.010)。
結論:
CRPは末梢および中枢神経の炎症を反映しており、大うつ病性障害(MDD)の患者でTNFとIL-6に対する免疫療法を対象とするために適切な末梢血バイオマーカと思われる。
英文の抄録はこちらから:Mol Psychiatry. 2018 Jun 12. doi: 10.1038/s41380-018-0096-3.
CMRIよりのコメント
サイトカインは感染防御や炎症など様々な場面絵d細胞と細胞の間の連絡、相互のやり取り(クロストークと言います)などに重要な生理活性物質ですが、インターフェロンなどのようなよく知られたサイトカイン以外に非常に多数の生理活性物質が生体の恒常性の維持に活躍しており、その全貌はまだまだ未解明なのです。関心を持っていただけると幸いです。
◯以下は参考図です。
画像引用元:https://www.tuyenlab.net/2016/09/microbiology-atlas-of-infections-of.html