1型糖尿病患者で有意に高いヨーネ菌検出(イラン)
1型糖尿病はいわゆる成人病、生活習慣9病に分類される2型糖尿病とは異なった糖尿病で、子供にも発症が起こります。健常者では膵臓のランゲルハンス島と呼ばれる細胞の集まりの中のB細胞(ベーター細胞)が出すインシュリンにより血糖値が上がりすぎないように調節がされていますが、1型糖尿病ではこの細胞に対する自己免疫が攻撃をして破壊をしていってしまうためにインシュリンが分泌されなくなり、糖尿病になります。2型糖尿病では、インシュリンが分泌されていても細胞や組織がそれに反応しない状態になり、血糖値の低下が起こりにくくなります。
ヨーネ菌は小さな菌の細胞内に、ヒトや動物の免疫機構に働く機能性の分子が存在しておりますがその全貌は明らかになっていません。これまで、クローン病、多発性硬化症、1型糖尿病、橋本病においてヨーネ菌の関与が報告されてきました。この論文はヨーネ菌汚染のひどいイランにおける1型糖尿病患者とヨーネ菌の関与についてPCR法、ELISA法、菌培養法で調べたイランのテヘラン医科大学医学部のHesam Shariati S博士らの報告です。
(1型2型のイラストは糖尿病ネットワークのHPより引用しました)
イントロ:
ヨーネ菌は、反芻動物におけるヨーネ病の原因菌である。近年、1型糖尿病(T1DM)を含む自己免疫を引き起こす役割が報告されています。イランでは家畜のヨーネ菌感染率が高く、かつ1型糖尿病の発生が増加していることから、著者らはイランにおける1型糖尿病患者の小グループについてヨーネ菌との関連性を調査した。
方法:
29人の患者および29人の健常対照被験者の血液サンプルをヨーネ菌のMAP3865cおよびZnT8相同エピトープに対する抗体(ペプチドに対する抗体を使用)をELISA法で、ヨーネDNAをPCR法で検出した。血液サンプルを用いてマイコバクテリア増殖インジケーターチューブおよびマイコバクテリンJを含むHerroldの卵黄培地を用いて培養した。
(ハロルド培地)
MIGIT培地の良い写真がありましたので抗酸菌用の蛍光培地の写真を引用させてもらいます。この研究では培養は陰性でした。https://twitter.com/ugougoy/status/515462487211143168
結果:
ELISAの結果は、T1DM患者と健常群との間に有意差を示した。IS900はまた、T1DM患者の51.72%において検出されたが、対照群のいずれにおいても検出されなかった。いずれの試料も培養培地中で増殖しなかった。
結論:
健康な対照被験者と比較して、有意な数のT1DM患者におけるMAP DNAおよびMAPペプチドに対する抗体の存在を調べた結果を報告しました。この結果から、我々はヨーネ菌がイランにおける1型糖尿病を引き起こしているトリガーであるかもしれないとして考えられる。この研究では、抗体検査と遺伝子検査からヨーネ菌に対する曝露が起こったことを示している。イランにおけるヨーネ菌感染を予防し軽減するために、汚染源や伝達経路の特定が必要であると思われる。
以前ご紹介したイタリアの報告も参照してみてください。
小児の1型糖尿病(T1D)の発生増加とヨーネ菌エピトープ(イタリア)
CMRIからのコメント
この研究論文は、イランのように家畜が高率にヨーネ病に感染していると、それ由来の畜産物を食べることにより、生菌や死菌が経口的に摂取されることで、暴露されて免疫異常が誘導されている可能性を示唆している。本論文でもトリガーと書いていますが、自己免疫病になりやすい遺伝的背景のある人がヨーネ菌抗原の暴露を受けると発病の引き金が引かれて、免疫系に変調をきたして自己の組織や細胞を攻撃する病原性リンパ球が誘導されているのではないだろうか。(百溪)
英文抄録はこちらで読めます。J Infect Dev Ctries. 2016 Aug 31;10(8):857-62. doi: 10.3855/jidc.7473.