低温殺菌乳でヨーネ菌は生き残ってる(イギリス)
2014年5月~2015年6月にイギリスの中部地方全域で収集された、クリームの一部が取除かれた低温殺菌牛乳(semi-skimmed pasteurised milk)368本が購入されました。そして牛乳中のヨーネ菌の検査がPhage-PCR分析を使用して実行された。2018年7月に公開されたノッチングハム大学のGerrardらの研究成果です。
実験の結果として、集められた全サンプルの10.3%に生きたヨーネ菌が入っていました。そして、低温殺菌では牛乳を介したヨーネ菌の人間の暴露を完全には除外することができないことが確認された。
Phage-PCR分析法を用いると、菌培養法やPCR法以上に多くの生菌が検出されて生菌数の低いサンプルからも検出することが可能なことから、結果的に検出されるヨーネ菌陽性検体数が増えるのです。
生菌数算定の比較とバルク乳サンプルから検出されるヨーネ菌のレベルをみると、ヨーネ菌が主に糞便の汚染によってミルクに入ったのではなく、乳房の内部でミルク中に直接排出されたことを示唆する。
加えて、実験結果は、ヨーネ菌の不均一な分布が体細胞細胞溶解以前の細胞成分以外の液体成分中に存在することによることを突き止めました。
CMRIの解説
ヨーネ菌は自己凝集性という性質が高く、菌同士が塊を作ります。これは実験をする時には不便な性質ですが、菌が密接に塊を作ることで、乾燥や加熱さらに殺菌剤に対さらされても、周りの菌が死んでも、塊の中心部分の菌は生き残るチャンスが有るのです。
この研究からは、従来からヒトや動物の血液からヨーネ菌が分離されており、これは腸の病変部から単球ーマクロファージの細胞内に入ったヨーネ菌が体中を回っていて、乳腺においては血液から遊走した感染マクロファージが乳汁中に出ていくことを裏付けています。
先日、本ブログで紹介したドイツの報告のように、牛肉のあちこちからヨーネ菌が検出されたのは血液細胞(免疫細胞)の一種である単球ーマクロファージが体中を回っているという証拠です。当然乳腺にも流れ込んでおり、乳腺の血管から遊走した細胞が牛乳中に入ります。これを牛乳中の「体細胞」と言い、この細胞が異常に高い場合には乳腺の炎症を疑うパラメーターとなります。
低温殺菌牛乳はとても美味しいものですが、その原乳は厳密にヨーネ病感染の無い農場由来のものである必要があります。日本の牛乳は問題ありませんが海外在住の方には気をつけていただきたいと思います。食を重視する方々には国のヨーネ病防疫対策に関心を持っていただきたいと思います。
Food Microbiol. 2018 Sep;74:57-63. doi: 10.1016/j.fm.2018.03.004. Epub 2018 Mar 9.
乳腺の図:https://medical-dictionary.thefreedictionary.com/mammary+abscess
農場のイラスト:http://www.vectorfreak.com/vector/nature/country-farm-vector-illustration.html
https://www.nottingham.ac.uk/