銅イオンを用いたヨーネ菌の不活化(チリ 2018)

ヨーネ菌は強固な細胞壁を持つことから殺菌に対する抵抗性を持っています。金属イオンの殺菌作用を調べた論文を紹介します。

背景の説明

ヨーネ菌(MAP)は、paratuberculosisやヨーネ病として知られる伝染性の高い伝染病の病原体です。この菌は家畜や野生の反芻動物だけでなく、人を含む非反芻動物にも感染していきます。MAPは、マイコバクテリウム(Mycobacterium)属の中で最も手強い菌の1つで、マイコバクテリウム・アビウムcomplex(MAC)に属する。複雑な脂質豊富に含む厚い細胞壁を持つ、抗酸性のグラム陽性菌です。

この菌の代謝活性は非常に低く、「クラスター」と呼ばれる細菌細胞の塊を形成する傾向がある。ヨーネ菌がバイオフィルムを形成する事も知られている。これらの生物学的特徴によりヨーネ菌は低pH、高塩濃度、および塩素の存在などの不利な環境条件のなかでも高生き延びることができる。普通の環境では数年の生存が可能です。

この環境抵抗性に加えて、この病原体は高温に耐性を示すことも知られており、複数の研究は、加熱殺菌によりヨーネ菌はLogレベルでの減少をするが、生存することができることを報告している。実際、ヨーネ菌は市販の高温短時殺菌(HTST)乳や、低温殺菌牛乳(72℃で15〜25秒)から分離培養されています。さらに、生きたヨーネ菌が乳児用粉末調製乳や牛乳代替品(粉ミルク)から分離されている。家畜衛生と公衆衛生の両方の意味でヨーネ菌は注意すべき重要な病原体であり、動物や人への伝染を制限するためにヨーネ菌を殺滅するためのより良い方法を見つけることは急務である。

これまでの数多くの研究で銅た銅合金の抗菌特性が確認されている。銅表面においては黄色ブドウ球菌、エンテロバクター・アエロゲネス、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA) 、および緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)、大腸菌(Escherichia coli:O157 H7や他の細菌病原体、ウイルスおよび真菌などの院内感染因子排除することができるという。

銅表面に曝露された2つの結核菌分離株が有意に不活性化されたことも報告されている。

銅の抗菌剤としての使用は、米国環境保護局(EPA)によって2008年に正式に承認されている。この研究では、銅イオンがヨーネ菌数を有意に減少させるかを評価するものです。

実験の結果

まず、対照として、銅イオンが懸濁されたPBSを持ちてMRSAと大腸菌を不活性化するかどうかの有効性を評価した。その結果、MRSAおよび大腸菌(≧3log10CFU/0.1ml)の懸濁液は、銅イオンによって完全に不活性化(殺菌)された。処理後の懸濁液を血液寒天上にまいてもコロニーは観察されなかった。

銅イオンのMAP生存率に対する影響を評価するために、ファージ増幅アッセイおよびMGIT (Mycobacteria Growth Indicator Tube)培養後に定量PCRと培養-PCRの両方で確認をした。ファージアッセイの結果、銅イオン(24V5分間感作)により 全てのMAP希釈液について生存菌の有意な減少(P = 0.03)が確認された(表 1)。MGIT培養結果では培養前と比較して銅イオン処理により増殖が抑えられ、検出されるまでの時間(TTD)値に統計的な有意差が示された。表1

培養液中のヨーネ菌DNAの量の測定では、非処理培養液での有意なDNA増加を認め、銅イオン処理がヨーネ菌を殺滅していることが示された。

1000倍(油浸)の顕微鏡下で最近の生死を判定できる「LIVE/DEAD BacLight染色」を用いた検査では前処理対照と比較して銅イオンが生菌のパーセンテージを減少させることが示された。さらに、処理後のサンプル中に生残する菌細胞は、減弱した蛍光発光と形態的な変化を示していた(図  2)。SYTO9およびヨウ化プロピジウムで染色された銅イオン処理後のMAP細胞の大部分は赤色蛍光を発し、細胞膜が明らかに影響を受けた結果ヨウ化プロピジウムが細胞内に染み込んだことを示している。(*赤い蛍光は細胞壁の変性したヨーネ菌を示している。)

Fig. 2

結論

この研究を要約すると、PBS中に銅イオンが懸濁されると、ヨーネ菌に対する実質的な殺傷効果を有することを初めて示したが、生き残るヨーネ菌も観察された。銅イオンを用いた処理がヨーネ菌に対する効果的で実用的な除染ツールであるかどうか、および銅イオン処理の作用の正確なメカニズムを解明するさらなる研究が必要である。

CMRIのコメント

金属イオンの殺菌効果は台所の流し口に銅メッシュを置くことでヌメリが抑えられるなどすでに実用化されている。ヨーネ菌に対しても一定の効果がありそだというこの論文は牛乳の処理過程に加えることでヨーネ菌生菌の減少を図る可能性を示している。蛍光染色により銅イオン処理した菌体の細胞膜の変性が示されていることから、加熱処理など他の殺菌処理との併用でヨーネ菌の殺滅が完全になる可能性もある。ヨーネ菌の強い生存力の鍵は細胞壁の強靭なことなので、この研究方向は更に進める意味がある。

今年のメキシコのヨーネ病国際学会で、CMRIは殺菌性のアルカリ水がヨーネ菌の細胞膜を破壊することを電子顕微鏡で示した(論文作成中)、この研究も進展させなければいけないと思う。

 

In vitro inactivation of Mycobacterium avium subsp. paratuberculosis (MAP) by use of copper ions

P. Steuer, C. Avilez, C. Tejeda, N. Gonzalez, A. Ramirez-Reveco, F. Ulloa, A. Mella, I. R. Grant, M. T. Collins and M. Salgado, BMC Microbiology201818:172
https://doi.org/10.1186/s12866-018-1313-6

  • Instituto de Medicina Preventiva Veterinaria, Facultad de Ciencias Veterinarias, Universidad Austral de Chile, Saelzer Building 5° Floor, Campus Isla Teja, PO Box 567, Valdivia, Chile
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