ヨーネ菌の腸粘膜組織からの排菌機構の解明

※本情報は当時の研究担当者がヨーネ病の研究活性化を願って、農研機構より転載して紹介しているものです。

要約

牛の腸肉芽腫病変内のヨーネ菌は腸上皮細胞の生理的亢進時の貪食処理に関与するマクロファージとともに受動的に腸管内に排菌されることを,TUNEL法によるアポトーシス検出およびMHC class (II)の免疫組織学的研究により解明した。

  • 担当:家畜衛生試験場 生体防御研究部 分子病理研究室 百溪英一(当時)
    連絡先:0298(38)7781
    部会名:家畜衛生
    専門:生体防除
    対象:牛
    分類:研究

背景・ねらい

ヨーネ病は慢性の下痢と削痩を特徴とする家畜法定伝染病であるが,免疫学的診断のできない潜伏感染個体が多数存在し,不規則に糞便中へ排菌するため防疫が困難である。本菌は子牛の経口摂取後の腸管のパイエル板のM細胞により受動的に感染が成立する。しかし,腸粘膜固有層に形成された肉芽腫病変からのヨーネ菌の排菌ルートについては不明であるため,予防法,早期診断法の開発をめざしてヨーネ菌の排菌機構の解明を行なった。

成果の内容・特徴

  • 様々な程度の病変を有するヨーネ病自然感染牛の回腸のホルマリン固定組織標本および回腸内容塗抹標本について,TUNEL(TdT- mediated dUTP-X nick end Labeling)法でおよびMHC class (II) (MHC(II))の免疫染色(ABC法)を行い,絨毛先端部に存在し,腸上皮細胞を貪食処理したと考えられるアポトーシス小体(Ap)とMHC(II) 分子を有するマクロファージとヨーネ菌の局在を調べた。
  • 腸絨毛先端部固有層や絨毛上皮内には正常対照にも種々の程度でApとMHC(II)陽性のマクロファージが観察された。ヨーネ病例では,ヨーネ菌を有したAp+, MHC+陽性マクロファージが様々な程度で見られた。Ap+,MHC+陽性マクロファージは腸内容塗抹標本中にも見られ,アポトーシスした上皮細胞を貪食したヨーネ菌感染マクロファージが腸管腔へ脱落したものと考えられた。
  • 腸上皮細胞は絨毛先端からアポトーシスし,数日に一度更新されているが,ヨーネ菌はこの生理的機構を利用し,体外に排菌されることが証明された。ヨーネ菌を有する肉芽腫構成細胞の寿命は長いが,感染細胞はいつか必ず崩壊し,菌は粘膜固有層に放出される。菌はマクロファージに取り込まれるが,細胞障害性が乏しいため,感染マクロファージは種々の機能的役割を果たせることが本排菌機構上のポイントである。

成果の活用面・留意点

今回の排菌機構によると,抗体上昇以前の潜伏期間における非常に小さな感染病変からでも腸粘膜バリヤーを傷つけずにヨーネ菌が排菌される。この所見は, ヨーネ病の早期診断,防疫においては,血清学的診断法に加えて,糞便中からのヨーネ菌を検出することが必須であることの科学的根拠となるものである。

具体的データ

 

 

 

 

 

 

  • 研究課題名:家畜の食細胞の活性化制御機構の免疫学的研究
  • 予算区分:経常研究
  • 研究期間:平成7年度~平成9年度
  • 発表論文等:
    1.世界獣医学大会講演要旨集,p.140 (1995)
    2.第123回日本獣医学会講演要旨集,p.103 (1997)