承認されているTNFα阻害剤はヨーネ菌感染マクロファージの感染を悪化させる:CD患者の抗TNF療法に対する反応低下の原因?(アメリカ)

腸粘膜のTNFαというサイトカインの過剰な発現が病気・症状の本体とされ、この過剰な発現を、特異的な抗体によりブロックするという治療法はクローン病患者のQOLを著しく改善する事ができる治療法です。しかし、この治療法も患者により効果の低下が起きるという問題が指摘されています。この抗体療法は現在原因が不明であるクローン病に対する有効な「対症療法」ですが、この論文は「クローン病の病理発生機序にヨーネ菌感染重要であるという考え方」をベースにしてこの治療効果の低減のメカニズムをインビトロ培養系の中で明らかにしようとしたものです。欧米では肉や乳製品の生きたヨーネ菌汚染が指摘されているため、クローン病はヨーネ菌の不顕性感染(無症状感染)の人に起こっていることだとする仮説があります。示唆に富む文献としてご紹介します。
BMJ Open Gastroenterol. 2018 Jul 15;5(1):e000216. doi: 10.1136/bmjgast-2018-000216. eCollection 2018. 著者 Qasem A, Naser SA

説明のための図の引用 Encyclopædia Britannica, Inc.  マクロファージの表面と内部、菌を捕食する偽足https://kids.britannica.com/students/assembly/view/143720

背景
クローン病(CD)におけるヨーネ病の役割はCDの患者の血液や腸組織からの本菌の検出によって明白であることがますます認められてきており、これはいくつかの非盲検抗ヨーネ菌治療データからもサポートされている。
抗TNFアルファ(TNFα)単クローン抗体(抗TNFα)は、CDの治療のために広く使われている。
抗TNFα抗体はCDの症状を抑える短期的効果はあるものの、大部分の患者は抗酸菌に対する感受性が高まってしまうという有害な副作用の被害を被っている。

方法
我々は、CD患者の血液から分離されたヨーネ菌株を感染させたマクロファージを用いて、組換えサイトカインと抗TNFα薬物療法学の効果を調べました。
0~50μg/mLの濃度のポリエチレングリコール分子を結合させてペグ化および非ペグ化された抗TNFα単クローン抗体、そして、最終濃度1000U/mのrTNFα、rIL-6、rIL-12、rIL-23とIFNγを添加刺激したマクロファージで、ヨーネ菌の生存率が測定された。
(*rは組み換え型の意味です。)
ヨーネ菌感染の後、炎症誘発性サイトカインのmRNAレベルの発現がRT-PCR法で測定された。

結果
ペグ化および非ペグ化された抗TNFα単クローン抗体はヨーネ菌生存度をCFUでみてほぼ1.5Log増加させた。また、rIL-6とrIL-12の添加は5.42±0.25log、4.79±0.14logのCFU/mlのヨーネ菌生存度を高めた。
対照的に、rTNFαの添加された感染したマクロファージでヨーネ菌生存を2.63log低下させていた。
TNFα、IL-6とIL-12発現はヨーネ菌や結核菌感染において他の菌の感染に比べて3倍高まっていた(p < 0.05)。しかし、ヨーネ菌感染ではIL-23とIFNγの発現に有意差が見られなかった。

結論
本研究で得られたデータはヨーネ菌陽性のCD患者の場合、抗TNFα治療がヨーネ菌感染を悪化させるおそれがあることを示しており、多くのCD患者において生じる「治療に対する反応の悪さ」を説明するものかもしれません。

CMRIから
抗TNFアルファ単クローン抗体治療の時には様々な抗酸菌感染に対する感受性が高くなるので注意して実施することになっています。クローン病の発生機序はまだ十分解明されていませんが、ヨーネ菌感染やヨーネ菌死菌抗原の免疫修飾作用との関係はもっと研究を深める価値があります。
原因がわかれば、より根源的な治療や再発防止策ができるでしょう。

詳しいことはこちらのPDFをダウンロードして参照してください。
●生物学的製剤と呼吸器疾患・診療の手引き
https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/105/8/105_1414/_pdf/-char/ja

●非結核性抗酸菌症の診断と治療はどうなっているか?
-生物学的製剤への対応を含めて-
http://www.jssog.com/papers/sarco2015_01_03.pdf

Biomedical Sciences Research Annex

University of Central Florida
Burnett School of Biomedical Sciences