日本の中枢神経系の炎症性脱髄疾患患者における抗酸菌抗原に対する液性免疫 (日本 2017)
比較医学研究所では順天堂大学医学部神経内科とヨーネ菌と多発性硬化症の関連性について共同研究を続けています(百溪は順天堂大学医学部の協力研究員)。パーキンソン病の治療や研究で日本一の実績のある順天堂大学医学部神経内科ですが、横山先生が多発性硬化症の臨床と研究を担当されています。
要旨
ヨーネ菌(MAP)とウシ結核菌(BCG)は多発硬化症(MS)のようなヒトの自己免疫疾患に関連していると考えられてきているが。矛盾する証拠も指摘されている。
本研究の目的は、中枢神経系の炎症性脱髄疾患(IDDs)に罹患した日本の患者(多発性硬化症患者と視神経脊髄炎)における抗酸菌の役割を評価することです。
*イラストはMS News Todayより引用。
材料と方法
51名の多発性硬化症患者と46人の視神経脊髄炎を含む合計97人の炎症性脱髄疾患と、34人の健常対照者(HCs)の血清にミコバクテリウム抗原に対するIgG、IgMとIgAが含まれるかがELISA法によって調べられた。
(*上のELISAの図はMBLライフサイエンスHPより引用 )
結果
多発性硬化症患者の抗ヨーネ菌 IgGのレベルは視神経脊髄炎患者や健康対象者と比べて統計的に有意に高かった。
そして、抗ヨーネ菌抗体はインターフェロン‐βで治療を受けている多発性硬化症患者でより有意にみられた。
抗BCG IgG抗体は多発性硬化症の患者の8%で検出されたが、視神経脊髄炎患者の32%、そして健康対照者の18%に認められた。多発性硬化症患者の抗体保有率と、視神経脊髄炎患者の間の差は統計的に有意だった。
それぞれの抗原で吸収後に行ったELISA試験ではMAPとBCGとの間に交差認識IgG Abが存在しないことが示された。
血清を抗酸菌で2時間吸収した競合ELISAの実験では、一般のミコバクテリウム抗原によって非特異性のIgMが誘導されていることが示された。
今回の研究はヨーネ菌と多発性硬化症との間に関連性があるさらなる証拠を示したが、BCG接種が多発性硬化症を起こす危険性と逆相関するらしい所見も示されました。
CMRIのコメント
多発性硬化症患者でヨーネ菌に対する高い抗体があることは、ヨーネ菌抗原(生菌であろうと死菌であろうと)が多発性硬化症の発生に役割を果たしていることを示唆しているだろう。しかし、ヨーネ菌の菌体内でどの様に自己免疫病を起こさせているのかはまだ不明のままです。特に、腸粘膜で発生している自己の細胞組織を攻撃する病原性Tリンパ球が
どのようにして生じるのか、また血液脳関門をどのようにして通過して中枢神経系に入り込むのかなどにフォーカスを当てる研究の必要性がある。
さらに、赤ちゃんの粉ミルクなど消費者が入手しうる乳製品にどのような形でどのくらでヨーネ菌が含まれているのかも早急な調査研究が必要です。
この論文の全文をお読みになることができます。
Sci Rep. 2017 Jun 9;7(1):3179. doi: 10.1038/s41598-017-03370-z.
Altered humoral immunity to mycobacterial antigens in Japanese patients affected by inflammatory demyelinating diseases of the central nervous system.
Cossu D, Yokoyama K, Tomizawa Y, Momotani E, Hattori N.
参考資料
多発性硬化症におけるリンパ球の中枢への攻撃。
①まず、体内のリンパ節で待機していたリンパ球が血液中に移動。
②リンパ球は血液の流れに乗って、中枢に入る。
③中枢に入ったリンパ球が免疫系に異常を起こして、ミエリンの破壊(脱髄)が起こる。
左図は田辺三菱製薬イムセラのHPの図を引用
http://imu-navi.net/general/info/medicine/douyattekiku.html