平成 21 年度食品安全確保総合調査 「食品により媒介される感染症等に関する文献調査報告書」でヨーネ菌に言及
以下は公開されている文書の引用紹介です。
食品安全委員会にはヨーネ菌のリスクをしっかり認識してこのように文書公開をする方々がいて素晴らしいことです。
1)ヨーネ菌の概要
(1)病原体と疾病の概要
ヨーネ菌(Mycobacterium avium subspecies paratuberculosis)は抗酸菌の1種であり、細胞壁成
分として多量に脂質を保有している(抗酸菌の共通特性)。本菌は鉄を利用する為のジデロフォア
ーであるマイコバクチンを産生せず、人工培地で培養する為にはマイコバクチンの添加を必要とする。
また、発育速度も極めて遅く、寒天培地上で集落を形成するのに6週間以上を必要とする。さらに、
宿主体外では増殖出来ないとされているが、環境中に排菌されたヨーネ菌は長期間にわたって生
存する。
ヨーネ菌の経口感染によって惹起されるヨーネ病は、牛、山羊、緬羊等の反芻動物の慢性肉芽
腫性腸炎として古くから知られている。本病は我が国では家畜伝染病予防法の法定伝染病に指
定されており、ヨーネ病として摘発・淘汰される牛は毎年 500〜1,000 頭となっている。諸外国では
我が国に比べヨーネ病の汚染率が高く、米国では 68%の酪農農家の環境材料からヨーネ菌生菌
が分離されたと報告され、欧州諸国の農場単位でのヨーネ病抗体陽性率は 10〜60%以上に達す
るとの報告がある。
ヨーネ菌は反芻獣にのみ感染し病気を起こすと考えられていたが、反芻動物以外にも感染する
ことが明らかにされ、飼育サル(オナガザル科)でのヨーネ病集団感染やヒトの血液や乳汁からのヨ
ーネ菌分離も報告されている。特に、ヒトのクローン病の肉眼所見や病理学的所見とヨーネ病とに
類似性があることから、ヨーネ菌とクローン病の関連が疑われている。我が国のクローン病は厚生労
働省の難病に指定されており、現在の登録患者数は約3万、人口 10 万人に対して 21.4 人である。
一方、諸外国では米国、カナダ、欧州諸国でのクローン病発生率は我が国に比べて数倍高いと報
告されている。
(2)食品汚染の実態
ヨーネ病罹患牛では糞便中にヨーネ菌が検出されると共に、乳汁中や筋肉からもヨーネ菌が検
出されると報告されている。従って、市販乳や乳製品がヨーネ菌によって汚染される可能性があり
実際に、諸外国では市販乳や乳製品からヨーネ菌あるいはその遺伝子が検出されたとの報告があ
る。米国の3州における市販乳のヨーネ菌検査では、2.8%のサンプルからヨーネ菌が分離されたと
報告されている。我が国では牛乳や乳製品のヨーネ菌汚染に関する調査は行われていない。しか
し、諸外国に比べ乳牛のヨーネ病罹患率が低いことや、省令で定められた我が国の生乳の殺菌条
件(63℃30 分、あるいはそれと同等)ではヨーネ菌は死滅することから、国内産の乳製品についてヨ
ーネ菌が検出される可能性は低い。
(3)リスク評価と対策
米国微生物学会(American Academy of Microbiology)は 2008 年に委員会報告としてヨーネ菌
とクローン病には関連があると公表している。しかし、この関連については、病原因子か、増悪因子
か、単なる共存因子なのかを今後究明することが重要であるとしている。2007年にスイスで開催され
た TAFS(INTERNATIONAL FORUM FOR TRANSMISSIBLE ANIMAL DISEASES AND FOOD
SAFETY) と FAO 及び OIE の共催により開催されたヨーネ菌と食品の安全に関するワークショップ
や、2008 年の TAFS からの「Recommended Risk Management Plan for Paratuberculosis」と題する
報告でもヨーネ菌と食の安全に関する問題が評価されている。いずれの報告においても、ヨーネ菌、
あるいはヨーネ病の診断が難しいことから、ヨーネ病の診断方法、ヨーネ菌の検出技術に関する研
究が重要であると指摘されている。我が国もヨーネ病の診断法に関わる問題は諸外国と同様である
が、本病を家畜伝染病に指定し、乳牛の全頭検査を行っているのは世界で我が国のみであり、そ
のような点からは家畜における対策レベルは高い。さらに、我が国では、食品衛生法、と畜場法等
によりヨーネ菌が食品に混入することを防ぐ対策が取られている。
※平成 21 年度食品安全確保総合調査 「食品により媒介される感染症等に関する文献調査報告書」
より抜粋 (社団法人 畜産技術協会作成)