ベニガオザルのコロニーにヨーネ菌感染が集団発生(アメリカ)

ヨーネ病はヨーネ菌の感染に起因する慢性肉芽腫性腸疾患です。ヨーネ病は1826年という昔から知られてはいましたが、ドイツの獣医病理学者Johneらが1895年に初めて抗酸菌染色でヨーネ菌を確認したという病気です。しかし、この菌の培養はマイコバクチンという増殖因子の発見後の1910年にはじめてなされたのです。ヨーネ菌感染は世界中に広がっており、畜産に及ぼす影響は相当のものですし、野生動物にも感染が見られるのです。ヨーネ菌の感染宿主は反芻動物ですが、単胃動物への感染も報告されています。しかし、単胃動物の感染報告においてはヨーネ菌が分離培養されたというものがすくないのです。

人以外の霊長類(猿)からの抗酸菌感染や分離の報告は多数ありますが、ヨーネ菌の感染はアカゲザルの感染として報告されていますが、病理学的な特徴はヨーネ病そのものですが、菌培養はできていませんでした。ひとのクローン病患者からのヨーネ菌分離の報告はヨーネ菌感染の宿主域(host range)の関心を高めました。この論文ではベニカオザルstumptail macaques (Macaca arctoides)のコロニーに発生したヨーネ菌感染の臨床、病理学的、血清学的および培養特徴を記載したものです。

研究材料
1978年に合計36頭のベニガオザルが米国アトランタのYerkes Regional Primate Research Centerで得られた。この猿は別の飼育施設で飼われていたものを1979年からの動物行動学研究の実験のために移されたものでした。

 

発症と死亡
このコロニーの38頭のサルの76%に当たる29頭が感染して、糞便中に排菌していました。過去5年間の間に13頭が死亡している。

菌培養結果
無症状な猿も1グラムあたり2×10(6)CFUのヨーネ菌を排菌していた。
瀕死の猿の腸からは10(8)CFUのヨーネ菌が分離された。

病理所見
このコロニーの猿に見られた臨床や病理学的な変化は反芻動物のヨーネ病に見られた変化と変わらなかった。

この写真はJ INFECT DIS Vol. 155, NO. 5 (1987)p1014より引用紹介

抗体検査
ELISA検査では79%-84%の動物にヨーネ菌に対する抗体が見つかった。しかし、臨床発症していた6頭には抗体が見られなかった。

結論
この報告はヨーネ菌が感染する宿主域が人以外の霊長類に及ぶことを明らかにした。このことはヨーネ菌がクローン病の原因であるという最近の考え方を支持するものかもしれない。

CMRIのコメント
これだけ多くの類人猿にヨーネ菌が感染し、牛のヨーネ病と同質の病変を形成したことは、著者らが言うように、ヨーネ菌が人間に感染しても全く不思議はないという根拠になると思います。欧米にはヒヨのヨーネ菌感染が起こっているという考えの研究者が少なからずおります。もしこれが事実であれば、クローン病の根治療法の開発も可能になりますし、ヨーネ菌の免疫調節作用の人に及ぼす影響の解析から、より効果的な治療法の開発も可能であると思われます。
ただ、日本の牛乳には生きたヨーネ菌が含まれていることは無く、死菌の免疫修飾作用も考えるべきだと思われます。(百溪)

 

猿の写真は以下のサイトより転載しました。
https://www.arkive.org/stump-tailed-macaque/macaca-arctoides/image-G42950.html